続き・・・(6)文脈の乱れ
 原稿を読むニュースなどと違って、自然な話は十分な構想を立てずに、疲労や感情の高まりによって論理的な話にならないことが多いものです。話に矛盾があり、筋が通らなくなるとき文脈が乱れるといいます。逐語型の記録では、それでも手を加えることは許されませんが、講演や座談会等の内容を伝えることが優先される速記の場合には、文脈の乱れは記号を使って矛盾を解決したり、状況に応じて原因となる箇所を削除することも必要になります。

<例文>
*私どもの会社もやはり研究開発はもちろん力を入れます「代わりに」、そのほかの今申し上げましたM&Aとか、あるいはベンチャー、分社化、こういうものもどんどん積極的に取り組んで成長させていきたいと思っておるわけであります.

[処理]かぎかっこ内の言葉を削除する

<例文>
*そういうふうな実例があれば出してもらいたい。その大体5件ぐらいですね。五つの例ぐらいで出してもらいたい。
<整文(修文)>
*実例があれば出してもらいたい。五つの例ぐらいで出してもらいたい。

<例文>
*現金の不足を、従って、7月におきましては来しまして・・・
<整文(修文)>
*従って、7月におきましては現金の不足を来しまして・・・

<例文>
*私が申し上げたいと思うのは、日本経済ということについてお話したいわけでございます。
<整文(修文)>
*私は、日本経済ということについてお話ししたいわけでございます。
(あるいは)
*私が申し上げたいと思うのは、日本経済についてでございます。

<例文>
*私は、そんなことは全く言語道断とも言える無責任である。
<整文(修文)>
*私は、そんなことは全く言語道断とも言える無責任なことであると思う。


<例文>
*欠点があると私が考えるのは、何らそこにおいて指導がなされていない。
<整文(修文)>
*欠点があると私が考えるのは、何らそこにおいて指導がなされていないからです。
(あるいは)
*欠点があると私が考えるのは、何らそこにおいて指導がなされていないことです。

<例文>
*もし私が大臣で、ぜひともこれはやらなければならないだろう。
<整文(修文)>
*もし私が大臣であるなら、ぜひともこれはやらなければならないだろう。
(あるいは)
*もし私が大臣であったならば、ぜひともこれはやらなければならないだろう。

<例文>
*それは実際、当たらずといえども遠くないと思う。
<整文(修文)>
*それは実際、当たらずといえども遠からずだと思う。

<例文>
*良きにつけ、よく仲間の中で言われてきたことです。
<整文(修文)>
*良きにつけ悪しきにつけ、よく仲間の中で言われてきたことです。
慣用的に定まったかたちには、以下のようなものがあります。
息つく(暇もない)、恩恵に(浴する)、手に汗を(握る)、
着のみ(着のまま)、途方に(暮れる)、万事(休す)、寝ても(覚めても)、
万策(尽きる、尽き果てる)、日も(夜も)、はしにも棒にも(かからない)、
似ても焼いても(食えない)、当たらずといえども(遠からず)、
しどろ(もどろ)、かてて(加えて)、とっかえ(ひっかえ)、
寄ると(さわると)、入れ替わり(立ち替わり)、お茶のこ(さいさい)、
恥も(外聞も)、おめず(臆せず)、弱り目に(たたり目)、
遅かれ(早かれ)、根掘り(葉掘り)、行き当たり(ばったり)、
火を見るよりも(明らか)、青息(吐息)、ちんぷん(かんぷん)
(7)方言
 編集目的に応じて処理・不処理を選びます。逐語記録の指示がある場合には変えません。
元来リライトグラフィーは公式発言を記録することに重点が置かれ、俗な発話は記録することは本旨ではなかったようです。速記文字・速記符号もそういう関係から、方言を書く符号はあまり指導されていません。ところが、テープ録音が普及してから方言や俗っぽい表現を記録する必要が高まっています。方言の表記法をどうするかは未開拓の課題とされています。
 方言処理のポイントは、音声学的な目的とか特殊な要請は除き、リライトグラフィーは意味の伝達を行うものですから、音の固定ではなく、言葉を再現することに務めるといった考え方をします。

<例文>
*カワンカシタカー フトカー モモガ
<整文(修文)>
*川の上から大きな挑が
    
<例文>
*ワタグスガ生ンダ子ダモノデスカラ、ボキャボキャホドワインス
<整文(修文)>
*私が生んだ子だものですから、ぼけはぼけほどかわいいんです。

 統一表記を重んじるノーサイド・ドキュメント・センターでは、上記例文のように、それぞれのリライター及びプルーフリライターが反訳文章を作成するようになっていませんので、関西弁や京都弁など、だれにでも意味の分かる主要な方言部分の手直しのみをすることにしています。
(8)私語
 公式な会議では発言には正規発言と不規則発言があり、記録は発言許可を得たものだけを行うことになっています。また非公式な会議、座談会等において、趣旨とは異なる会議が行われ、話題の本流に関連しないものは私語として記録の対象とはしないのが一般的です。つまり反訳のときには文字化する必要がありません。
 これに対して、自分自身に声を発し語りかける言葉を独り言と言い、この場合も全員に伝える目的は弱いものと理解し、発言の記録対象としません。

<例文>
*これは、あっ、そうか、12ページに載っております。
<整文(修文)>
*これは、12ページに載っております。
<例文>
*このことは、えー、何ページだったかな、はい、5ページにあります。
<整文(修文)>
*このことは5ページにあります。

<例文>
*それは大変だ、うん。
<整文(修文)>
*それは大変だ。

 講演や会議が始まるまでの準備に関する情報や雑談など、リライター及びプルーフリライターの判断で適切な削除をします。広い会場で「マイクを使ってください」といった司会者の言葉が、発言者のたびに録音されているものがありますが、これらについても適切に削除してください。
(9)字の説明
 反訳文書作成の目的によって処理法が分かれますが、特別な意図がない限り通常は字の説明は正しい文字を表記すれば書かなくてもよいものです。しかし、対談などでは、この個所を削除することのほうが困難な場合もあり、話の流れを尊重してそのまま反訳することも多々あります。

<例文>
*りっしんべんに亡くなるという忙しいという字
<整文(修文)>
*忙しいという字

<例文>
*片仮名のウエエシマコーヒー
<整文(修文)>
*ウエシマコーヒー


 似通ったもので、「発音しているのに表記しないもの」もあります。

<例文>
*200飛んで3万円
<整文(修文)>
*203万円

<例文>
*5千飛び飛び5万円
<整文(修文)>
*5,005万円

<例文>
*700転んで7円
<整文(修文)>
*707円

<例文>
*2千コロコロ3万円
<整文(修文)>
*2,003万円

<例文>
*300コロ2円
<整文(修文)>
*302円

<例文>
*35点の2%
<整文(修文)>
*35.2%
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